御所巻(ごしょまき)―世田谷区史編さん問題―

御所巻とは、中世の異議申し立て方法のことを言います。世田谷区による区史編さん委員へのパワハラと著作権の問題についてのブログです。出版ネッツのメンバーが運営しています。

世田谷区史編さん問題とは?

 世田谷区では区政90周年を記念し、自治体史を編さん中です。区では、編纂委員に対して執筆の条件として「著作者人格権不行使」を強要しました。
 この条件に納得できない歴史学者が抗議したところ、編さん委員を解任され、区に話し合いを求めても拒否された状態が続いています。

執筆間際に飲めない条件を通告。詳しい説明なし

 組合員の谷口雄太さん(青山学院大学准教授)は日本中世史の研究者で、とりわけ中世世田谷・吉良氏研究の第一人者です。
 2016年、谷口さんは世田谷区から区史編さん委員を委嘱され、2017年から執筆に向けて調査・研究活動を開始。しかし、委嘱から6年以上過ぎ、執筆間際になった2023年2月10日、区は執筆の条件として「著作権譲渡および著作者人格権不行使」を通告してきました(回答期限は3月10日)。


勝手に改ざんされても文句が言えなくなる!

 いずれも問題がありますが、特に認められないのは「著作者人格権不行使」です。「著作者人格権」とは、自分の執筆した原稿が無断で改変されない権利を含みます。これを不行使にすることは、改ざんされても抗議できなくなることを意味します。後の研究者生命にかかわるだけでなく、歴史修正主義を可能にする仕組みに研究者自身が加担することにもつながります。絶対に認めるわけにはいきません。

 

話し合いを1度で打ち切り、委員解任

 2月28日、区との間で話し合いを持ち、著作者人格権の尊重を訴えました。しかし、話は平行線のまま終了。私たちは協議の続行を訴えましたが、区は一方的に打ち切り。そして、区は3月31日をもって、谷口さんを委員から解任し、執筆から外してしまいました。
 このような区の対応に対して、出版ネッツでは次のような取り組みを行いました。

◎東京都労働委員会へ救済申し立て

 4月14日、世田谷区による(1)谷口さんの区史編さん委員解任、(2)正当な理由なく私たちとの話し合いを拒否したこと、これら2点を不当労働行為として、東京都労働委員会へ救済の申し立てを行いました。申し立ては受理され、6月27日第1回の調査が予定されています。


◎抗議声明の公表

 3月18日、世田谷区に抗議するため、「世田谷区史編さんにおける『著作者人格権の不行使』問題についての声明」を発しました。この声明に対して、歴史関係の学会、研究者の皆さんはじめ、多数の方からの賛同が寄せられています。行政による歴史の書き換えを可能にする仕組みに対して、強い懸念と危惧が広がっていることがわかります。大手メディアによる報道も相次いでいます。

 

★世田谷区だけの問題ではありません!

 この問題は、著作権問題に加え、労働問題、さらには社会の右傾化と深くかかわる歴史修正主義の問題もはらんでいます。世田谷区という枠にとどまらず、広く社会で共有されるテーマと考えます。一人でも多くの皆さんに知っていただきたいと思います。

                                 (松本浩美)