『世田谷区史編纂問題 著作者人格権をめぐる闘いの記録』ができました!

2年にわたって闘われてきた世田谷区史編纂争議の経過と成果を記録に残すために、報告集『世田谷区史編纂問題 著作者人格権をめぐる闘いの記録』を作成しました。
本書は、本編と資料編で構成しています。
本編では、この闘いに心を寄せてくださった方々からのメッセージを載せています。
メッセージをお寄せくださった方々に、心より御礼申し上げます。
「PART2 闘いの意義と軌跡」では、出版ネッツがどのような戦略を立て、いかに闘ってきたかについて述べています。
「PART4 集会の記録」では、2024年7月に開かれたシンポジウム「歴史研究と著作権法」のパネラーの発言要旨を掲載しています。
この報告書を広くご紹介いただけますようお願いいたします。
↓こちらからご覧ください(PDF形式)↓
https://union-nets.org/wp-content/uploads/2025/07/1abdea99cd7bfdcb236ea09d594220d6.pdf
『世田谷区史編さん問題 争議解決報告集』を 発行します 【紙版申し込みのご案内】
出版ネッツでは、歴史研究者、フリーランス・クリエーターの権利に大きな影響を与えた本争議の意義を伝える『争議解決報告集』を発行します。
■解決報告集について
◆2025年6月末発行予定
◆B5判、80ページの予定
紙版をご希望の方は、以下の申込用Googleフォームからお申し込みください
■紙版『世田谷区史編纂問題 争議解決報告集』
申込用Googleフォーム ↓↓
https://forms.gle/DdDY7rFtFPGa5Ekb6
■申し込み締切日:2025年6月5日
■紙版は、有料(頒価1,000円、送料込み)となります
■申し込み、お支払い、送付の手順
◆2025年6月5日までに、申込用Googleフォームにてお申し込みください。
◆申込者に、振込先をメールでお知らせしますので、1,000円/冊をお振り込みください。
※銀行口座への振り込みとなります。
※恐れ入りますが、振込手数料はご負担ください。
◆6月末~7月初旬、ゆうメールにて送付します。
4月5日世田谷区史編さん争議解決報告集会開催

歴史研究者の谷口雄太さんが訴えてきた世田谷区史編さんにおける「著作者人格権の不行使」問題と、編さん委員委嘱打ち切りをめぐる争議は、2024年12月に和解の合意に達し、2025年1月に確認書を取り交わして解決しました。これを祝し、4月5日(土)に全国教育文化会館エデュカス東京にて、報告集会が開かれました。当日はオンラインを含め61名の参加で、「闘いの意義について」「支援・連帯のメッセージ」「フリートーク」の3部構成、30名近い方がマイクを握りました。
以下、14人のメッセージの要旨をご報告します。
困難に直面しながら、一歩踏み出し、声を上げて勝利を勝ち取ったことは、フリーランスの闘いの原点を見る思いがしました。
◆弁護士・平井哲史さん
出版ネッツと顧問契約を締結した直後にいくつも相談が来たうちのひとつが谷口さんの件でした。組合として、著作権法上、著作者人格権は譲渡できないことを正しく理解し、交渉、そして勝利したことは、商業ベースで出版社側が生殺与奪権を握っているような状況で、大きな梃子になると思います。
◆東京都労働委員会労働者委員・日野麻美さん
区側は、谷口さんには労働組合法上の労働者性がないから団体交渉拒否は不当労働行為ではないとしましたが、区史編さん委員は地方公務員法の第3条3の3の特別職非常勤で、労働者性があると主張し、和解に向かうことができました。元区職員の経験が役立ちました。
著作者人格権不行使特約はまだ司法判断も出ていない、解釈の分かれる問題です。今回、谷口さんと組合が区ときちんと交渉し、不行使を撤回させ、区に契約書のひな型を公開させたことはとても大きな成果です。ぜひ今後に生かしていってください。
◆世田谷区史のあり方について考える区民の会・稲葉康生さん
歴史研究の成果に基づくよりよい世田谷区史を求めて区民の会を立ち上げ、区に対して要望書と見解を出し、勉強会などを開いてきました。労働組合の運動と区民の運動とが二人三脚で取り組むというのは稀なことでしたが、これからの新しい形になっていくのではないかと思います。
◆出版労連・住田治人さん
言論、表現の自由を守る立場から解決を嬉しく思っております。ただ、出版労連として支援体制が取れなかったことを遺憾に思っております。谷口さんにご苦労をさせてしまいお詫び申し上げます。著作権や著作者人格権について、学び広めていく必要があると考えています。
◆フリーランスユニオン・永田由美さん
フリーランスユニオンで労働委員会を傍聴、運動方針についていっしょに知恵を絞ってやってきたので解決はほんとうにうれしいです。ビジネスと人権の観点からも、今後、著作者人格権が意識されていくと思います。
◆青山学院大学・谷口雄太さん(当事者)
みなさまのおかげでここまでやってこられたことを改めて感謝申し上げます。争議は終わりましたが、区史編さん問題はまだ終わっていません。区のなかにさまざまな問題があります。また、真贋を見抜くことについて考えさせられました。さまざまな支援をいただく一方、誹謗中傷や分断があった。危機のときこそ人は問われるのだと改めて思います。これからも、よろしくお願いします。
◆一橋大学・長塚真琴さん
著作権の理論には、作品と作者の結びつきを守る欧州大陸の理論と、作品そのものに着目し無断コピーを防ぐ、英米に源流がある理論と、大きくはふたつあります。作者にお金を払って作品を使う人がもっと売れるようにとどこかを変えた、それはありと考えるのが英米系で、作品の中身を変えるのはアウトなのが欧州系、その根拠が著作者人格権です。日本の法体系はもともと欧州大陸系なので著作者人格権が法律にあります。しかし技術が進んでくるなかで、専門家の間でも情報の流通を自由にしたいという考えが強まり、ソフトウェアなど、人格とあまり関係のない著作物について著作者人格権不行使特約というものが流行っています。そんななか、今回の解決は、著作者人格権の存在意義を改めて明らかにするインパクトがありました。
実務の面でも、歴史的叙述という言語作品における不行使が撤回された、それも世田谷区という影響力の大きい自治体で、悪しき前例が撤回されたことは、たいへん大きな意味があると思います。
◆出版ネッツ・杉村和美さん
2022年10月、谷口さんが相談に見えて「著作者人格権不行使契約は研究者生命に関わる問題、自治体史編さんにこのような契約が広がることを防ぎたい」と訴えられました。2年の闘いを経て、世田谷区が著作者人格権不行使契約を撤回し、著作者人格権の尊重を確認したこと、区が谷口さんに委員の委嘱を申し出て事実上の謝罪をし、谷口さんの名誉回復がなされたことが、大きな意義です。
この解決には、労組法上の労働者性というフリーランスが常に直面する壁を乗り越え、都労働委員会で不当労働行為を暴いたこと、歴史学者や著作権の研究者を交え著作者人格権不行使の不当性を訴え、声明に各界からの賛同を得たこと、区民の会をはじめ広範なネットワークにより社会に訴えたこと、ドラマ「セクシー田中さん」の原作者が命を断つという痛ましい事件、歴史修正主義に対する危惧の広がり、区役所前での抗議行動、そしてフリーランス法施行などが力となりました。
2025年1月、区と確認書を取り交わし、区は著作権モデル契約書を公開、組合は都労委への申し立てを取り下げました。また文化庁や公正取引委員会、総務省自治行政局にも著作権法やフリーランス法に則った契約をするよう要望書を提出しています。区のハラスメント防止方針が業務委託で働く人を対象外としていることなど、まだ課題があるので、これについて何らかの働きかけをしていきたいです。著作者人格権については不行使特約をめぐって理不尽な状況が広がっています。今回の解決の成果を広げていきましょう。
◆明治学院大学・石原俊さん
自治体史は、長年、行政が歴史学者に同一性を保持し、研究者は学術的な精確性を保証するという関係性のなかで編さんされてきました。今回、それを破壊する前例になりうる、学術や科学にとってきわめて大きな問題と考えてきました。さまざまな方の協力でこれを解決できました。
◆奈良大学・木下光生さん
今回、自治体史の記述が研究業績であることを明確化できたことは成果です。一方、今回の問題への声明に日本史研究会、歴史学研究会などが賛同を示したものの分断も生じました。とくに区史編さん委員である若手の研究者たちが追い込まれる状況が生じ、研究者間の連帯に禍根を残したと思います。
◆区民の会・酒井かをりさん
どう説明すると理解してもらいやすいか? 悩んでいた著作者人格権。当時、国際著作権法学会会長だった世田谷区民の故・斉藤博弁護士を訪ね「著作者人格権は生存権と同じ権利です。生存権を他者に売り渡せないですよね? 同様に著作者人格権もそもそも売ったり買ったり、不行使することはできません」との説明を受けて腑に落ちました。著作者の許諾を得るステップを区も省かなければよいだけのことです。
◆大東文化大学・宮瀧交二さん
自治体史は、歴史学者個人のものではなく、市民の財産でもあり、今回世田谷中世史、吉良氏の研究の第一人者である谷口さんが委員を降りられたことで自治体史の学術的価値が損なわれかねない事態であると思います。また、地域史を追究する市民の歴史研究も織り込んでいくことが、今後の自治体史編纂には必要ではないかと考えます。
◆イラストレーター・オオスキトモコさん
今回、契約の上で自治体と民間企業の違いが明らかになりました。イラストレーターの場合、クライアントから一方的に不利な条件を提示されるケースが増えています。自分の権利や仕事の条件に無関心ではいけない、学び続けていきたいです。
このほか世田谷区議の桃野芳文さん、オルズグルさん、若林りささん、小野みずきさんや区民の会、出版ネッツのトラブル対策チームや同じく争議が解決した高橋文枝さんから、それぞれ思いのこもったメッセージがありました。
(まとめ:山家直子/編集、写真:岡本茉衣/ライター・編集)
世田谷区史編さん争議解決報告集会のご案内
本年1月7日、世田谷区史編さんをめぐる争議が解決しました。
解決にご尽力いただいた多くの方々に心より感謝します。
争議の経過はこのブログ御所巻を、解決の内容は、下記PDFの「声明」をご覧ください。
今回の解決では、和解文書に「著作者人格権の尊重」が明記された点に最大の意義があります。全国の自治体史にかかわる人々、歴史研究者はもとより、フリーランス・クリエーターの権利にも大きな影響を与える内容です。
この闘いの意義について、皆様と共有したいと思います。
下記の要領で解決報告集会を開きますので、お誘いあわせの上、ご参加ください。
(オンライン参加+対面リアル参加:どちらもお申し込みが必要です)
■日時:4月5日(土)14時開場、14時半開始(~16時半)
■場所:全国教育文化会館エデュカス東京地階会議室
(千代田区二番町12-1/地学会館の隣)
GoogleマップURL:https://x.gd/fLfH9
■参加費:1000円(対面、オンライン参加とも)
■共催:出版ネッツ、世田谷区史のあり方について考える区民の会
■お申し込み(対面、オンライン参加ともお申し込みが必要です)
※申し込みURLは↓↓
・オンライン参加 https://nets-setagaya.peatix.com/view
・対面リアル参加 https://forms.gle/qNRy3FxRdTipmoRp8
※申し込み締め切り:3月28日18時
※対面リアル参加では、二次会の申し込みも受け付けます(参加費は別途当日徴収)
【PDF】解決報告集会案内+声明
https://drive.google.com/file/d/11DV4K8Hhr8oOk8lK8XTereWDYbcnQatI/view?usp=sharing
文化庁、公正取引委員会、総務省自治行政局に著作者人格権尊重についての要望書提出

・文化庁への報告&要望(20250117).pdf
https://drive.google.com/file/d/1tml4ovSClrV9wkz2E_NIiH1h8nPHyVPq/view?usp=drive_link
・総務省自治行政局への報告&要望(20250117).pdf
https://drive.google.com/file/d/16nPdORyZxc9DMCv8FJOpbvk4PZgbtHAQ/view?usp=drive_link
世田谷区との争議が解決、確認書を締結 出版ネッツと区民の会が記者会見

1月7日に世田谷区史編さんにおける「著作者人格権の不行使」問題・区史編さん委員委嘱打ち切りをめぐる争議が解決した。締結した「確認書」にて、世田谷区は著作者人格権の尊重を確約、区のサイトに著作権に係るモデル契約(確認)書を掲載した。出版ネッツは東京都労働委員会に対して不当労働行為救済の申し立てを取り下げた(ネッツ公式サイト掲載の「声明」参照)。
このことについて、出版ネッツと区民の会は1月27日に文部科学記者会で記者会見を行った。当日集まった記者は約10名。
世田谷区から「著作者人格権の不行使」を強要された谷口雄太さんは「多くの自治体で同様なことが発生する」と状況が広まることを危惧。①著作者人格権を持っていることを意識する、②契約書をきちんと見る、③問題があったら話し合う・抵抗する――この3つを実際に行っていくことの必要性を訴えた。
記者との質疑応答では、谷口さんや区民の会に多くの質問が寄せられた。
記者が「感想は?」と問うと、「ほっとした」と谷口さん。「同一性保持権に限定した話か」と問われると、「著作者人格権全体として」と説明した。
別の記者が、「ほかの編さん委員にも同様の対応をするのか」と尋ねると、区民の会の稲葉康生さんは「ほかの人は以前の契約書で執筆している」と述べ、「新しい契約書で区史を書いてもらうのが望ましい」とした。
「編さん委員内では著作者人格権の不行使条項に異論はあったのか」と質問されると、谷口さんは「内々には声は届いている。区との間で権力勾配があり、声に出せない状況がある」と、構造的な問題を指摘。また出版ネッツの杉村和美さんは編さん委員に非常勤講師が多いと説明した。谷口さんが編さんにかかわらないことにしたのは、「問題を起こした区や区に従った委員らと一緒に編さん作業をやれないからだ」と述べた。
自治体史の現場で「著作者人格権の不行使」のモデルが広まることを食い止める必要がある。今回の解決はそのために意義があることであり、そのほかクリエーターの現場でも「著作者人格権の不行使」を契約書に盛り込むケースが増える現状を食い止める力になるだろう。
〔編集部注〕
記者会見の様子は、NHK、東京新聞、朝日新聞、読売新聞に掲載されました。
・東京世田谷区 区史めぐる「著作者人格権」問題で和解(1月27日、NHK首都圏NEWS WEB)
https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20250127/1000113558.html
・研究者の「著作物を書き換えられない権利」尊重へ 世田谷区史の著作権問題、区が方針撤回(1月28日、東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/
・世田谷区、区史編纂で著作者人格権を求めた准教授と和解(1月28日、朝日新聞)
・出版ネッツ「世田谷区史編さん問題をめぐる争議解決にあたっての声明」のお知らせ(1月29日、奈良歴史研究会ブログ)

