御所巻(ごしょまき)―世田谷区史編さん問題―

御所巻とは、中世の異議申し立て方法のことを言います。世田谷区による区史編さん委員へのパワハラと著作権の問題についてのブログです。出版ネッツのメンバーが運営しています。

世田谷区史編さん問題とは?-概要-

 東京都世田谷区は2016年から区史編さん事業を開始しましたが、2022年、突如、区は執筆予定の区史編さん委員(歴史学者ほか)に対して「著作者人格権の不行使」(勝手に改変されても文句を言わない、という条件)を求め、それを承諾しなければ委員委嘱を打ち切ると通告。委員である谷口雄太さんと出版ネッツは、区の一方的やり方に抗議し、話し合いを求めましたが、区は1回話し合いをしただけで打ち切り、2023年4月、谷口さんの委員解任を強行しました。

 この問題は、著作権問題に加え、フリーランス(業務委託)の労働問題、さらには社会の右傾化と深くかかわる歴史修正主義の問題もはらんでいます。

 

著作権勉強会のご案内

著作者人格権とはなにか~自治体史に係る著作権契約について~

このたび、世田谷区史のあり方について考える区民の会主催で、著作者人格権についての基礎知識を学ぶため、著作権法の専門家である長塚真琴先生をお招きして、勉強会を開きます。

ふるってご参加いただけますようお願いいたします。

 

【講師紹介】

長塚真琴先生 一橋大学大学院法学研究科教授

主著(分担執筆)に、アレクサンドラ・メンドーサ=カミナード編『企業と人工知能―法からの応答』(フランス語、2022年)、半田正夫・松田政行編『著作権法コンメンタール[第2版]』(勁草書房、2015年)。論文に、「フランス法(シンポジウム:著作者の死後における著作権著作者人格権)」『国際著作権法研究(ALAI Japan研究報告)2020年度版』ほか

 

■日時:2024年7月24日(水)14時~16時

■場所:世田谷区役所東棟(新庁舎)9階第5委員会室(対面・オンライン併用)

    ※セキュリティが厳しく議員や職員以外は7階までしか上がれません。

     13時50分までに7階議会事務局横のロビーに集合してください。

■参加費:無料

■申込先:対面、オンラインともお申し込みをお願いします

 ↓↓お申込みはこちら↓↓ 

https://forms.gle/v3Y26dTBzRmC5BsRA

         

■参加申し込みの締め切り:7月23日(火)17時

 ※ただし、定員(対面30名、オンライン30名)になり次第締め切らせていただきます

■主催:世田谷区史のあり方について考える区民の会 協力:出版ネッツ

 

※以下URLから勉強会のチラシのPDFをダウンロードできます。

7月24日著作権勉強会のご案内.pdf - Google ドライブ

 

世田谷区による歴史叙述をチェック

  • 世田谷区による歴史叙述をチェックしてみた

 過日、「区民の会」とともに、世田谷城とその周辺をまわった。

  目的は、単に歴史を知ること、にあるのではない。区がどのように歴史を描いているのか、これを知ることにあった。

   その目的は当日、十分に果たされたといってもよい。区がいかに杜撰な「歴史」を書き散らしているのか、白日の下にさらけだされたからだ。

    世田谷区史編纂問題の前提・根底には、区の杜撰な歴史に対する取り組みがあるのである。

    それを裏付けるものとして、今回、世田谷区のホームページも検証してみたい。

    

https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kusei/012/015/001/010/d00014476.html

    ここには、「最終更新日 令和4年9月22日 ページ番号 14476」とある。

 

  • えっ! 伝説の常盤姫が実在!?

 まず、ここにはいきなり「おもしろいこと」が書かれている。

 

  >さぎ草の伝説の主人公「常盤姫」もここに住んでいました。

 

  世田谷区には「さぎ草」伝説というものがあり、区の花にもなっている。しかし、これはあくまでも「伝説」であって、「史実」ではない。ゆえに、実在しない「常盤姫」が、世田谷城に住んでいたことなど、ありえない。物語の主人公が、現実に住んでいたというのだから、噴飯モノというほかはない。

   このようなウソが区のHPには書かれているのである。

   「さぎ」草伝説ではなく、世田谷区による「サギ」的な言説ではないか。

 

  • まだまだある。驚くべき「説明」

   また、次のような「説明」もある。

  

>初代吉良氏が南北朝の頃、

 

   ここも意味不明であって、吉良氏の初代は鎌倉期にまで遡る。つまり、吉良氏の初代は南北朝期(1336~1392)ではない。明らかなウソである。

  

    さらに、驚くべき「説明」がある。

 

    >関東管領足利基氏

 

    ここにいたっては明らかなウソであり、実に恥ずかしい。

    現在、学術の世界において、関東の足利氏は「鎌倉公方」・「関東公方」というのであって、「関東管領」ではありえない。

    「関東管領」というのは、足利氏=公方を補佐する役職で、上杉氏のことをいう。

    つまり、世田谷区は現在の学術的常識を、根本からまるで理解していないのである。

否、学術の世界ばかりではない。鎌倉公方関東管領は、山川の日本史の教科書でも太字の重要用語である。高校の教科書に太字で載っているようなことを、世田谷区は思いっきり間違えているのである。これでは歴史で点数をとることなどできまい。大丈夫なのか?

 

    このような恥ずかしい情報が、区のHPに堂々と掲載されているのである。

    恥を知れ、というほかはない。

  なお、これ以外にも不正確な情報が記されているが、教える義務はないので、やめる。

 

    区は当該記事をチェックしていてしれっと修正するのか、

    あるいは、恥も外聞もなく区内外にデタラメをまき散らし続けるのか、楽しみだ。

(谷口雄太)

 

区による解説「?」がいっぱい~世田谷城ダークツアー開催

 6月16日(日)、世田谷城ダークツアーが開催されました。

 元埋蔵文化財調査員の鈴木清さんと世田谷城主吉良氏の研究者である谷口雄太さんによる、最新の研究に基づいた解説付き世田谷城阯公園周辺散策という、贅沢なイベントです。

 一般にダークツアー・ダークツーリズムと言えば、人類の悲劇や不幸な側面をめぐる旅のことですが、今回のイベントがなぜ“ダーク”なのでしょうか。 それは、世田谷城の歴史を巡る「影」の側面を学ぶことも目的だからです。

 当日は、真夏並みの蒸し暑さのなか18名が参加しました。

 先に挙げたお二人の解説の他に、旧尾崎テオドラ邸では建築士の参加者が明治期の西洋建築の特徴を解説、滝坂道や豪徳寺では古地図や街道に詳しい参加者が裏話(?)も披露。「なるほど!」「へー! そうなんだ」を連発しました。

 

〇看板の解説文をチェックしてみると…

 メインの世田谷城では、城跡を巡る前に看板の解説文の矛盾をチェック。

 看板には世田谷城の城郭構造の推定図があり豪徳寺の所に「吉良氏の館」とあります。これは昭和40~50年代に出された説で、当日いただいた資料「世田谷城跡」(第7次調査の報告書。調査は2005年)には、「昭和62年の測量調査などから吉良館の主殿はここと推定される」と書かれています。推定図にも豪徳寺伽藍あたりに「現存する土塁」が描かれています。でも、昭和62(1987)年の世田谷教育委員会の調査報告書では、この「現存する土塁」は近代~昭和の盛土ってあるんですけど……?

 他にも吉良氏は「太田道灌と同盟」を結び「武蔵国の中心勢力として繁栄」するなどかなり話が盛られています。「中心勢力として繁栄」にいたっては裏付けとなる史料も何もなく、昭和42(1967)年刊の本から拝借しただけのようで、地元の武将を大きな館に住むヒーローにしたかったのかなと思いました。フィクションのドラマならともかく、教育委員会による解説文ですから話を盛っちゃダメでしょ。

 

〇歴史の調査はまるで犯罪捜査

 今回お話をうかがって、歴史の調査はまるで犯罪捜査のように感じました。現場(遺跡)では小さな物的証拠ももらさず、聞き取り(文献や史料)の情報は信用できるか矛盾はないか慎重に扱い、新たな証拠(研究成果)を積み重ねて事実に迫る。ところが、結論ありきでストーリーに合う証拠のみを取り上げたり事実を隠蔽したり、場合によってはねつ造したり。冤罪事件にありがちですが、歴史の調査も同じで、発掘調査がいい加減だったり調査結果や史料を恣意的に扱ったり、更新される研究成果を無視したりすれば、もうそれは学術的な価値はゼロです。区はそれでかまわないのでしょうか。解説文にはルビも振ってあります。きっと地元小学生が地域の歴史として学ぶのでしょう。世田谷っ子のみんな、残念だったね。

 

〇世田谷区の頑なな態度が示すもの

 「著作者人格権不行使」の問題で、なぜ世田谷区が頑なに拒否するのか不思議でした。世田谷区にとっても契約を改めたほうがイメージアップにも繋がりますし、得でしかないはずなのに。

 しかし、今回いろいろとお話をうかがって、『往古来今』での原稿の改ざんもデジタルミュージアムへの無断転載も(注)いきなり起こったことではなく、長い間ずっと続いていた体質が引き起こしたことだとわかりました。まるで絡み合ってこびりついて取れなくなったガンコ汚れみたいです。

 この実態を知るにつけ、なるほど、ダークだったなと感じた次第です。

C.S.

 

注 世田谷区はかつて編纂委員の原稿を無断で書き換えた過去があります。2017年10月区史の前段階として発刊した85周年誌『往古来今』で、谷口雄太さんの原稿は約800か所改ざんされたうえ、区の「デジタルミュージアム」(インターネット)にアップされてしまいました。本件は2019年10月区議会で大問題になり、区は謝罪に追い込まれました。さらに区は谷口さんに対して「今後は著作権を大切にする」と約束しました。しかし、約束は完全に反故にされ、現在に至ります。

 

世田谷城の城郭構造(推定): 水色に塗られているところは、区が空濠と主張しているが、最近の研究では水濠の可能性が高い。誰かが修正してくれたのだろうか。

 

尾崎テオドラ邸:豪徳寺のすぐ近くに位置する。1888(明治21)年建築、1933(昭和8)年現在の地に移築。近隣住民が世田谷区に文化財指定してほしいと要求するも、区は拒否。2020年に取り壊されることになったが、漫画家・山下和美さんらが中心となって保存プロジェクトを展開したことで解体を免れた。公式サイト:https://ozakitheodora.com/

 

③ 水濠跡に降りて説明を聞く。周囲に見える石垣は昭和初期に建造されたもの。

編さん委員報酬は「給与」だった~第7回都労委調査~

■公益委員、審問に向け「争点」示す

 5月30日、東京都労働委員会で第7回調査が行われました。

 前回調査で世田谷区が和解を蹴ったため、公益委員は、審問手続きに進むため「争点」を提示しました。①区史編さん委員会委員は「労働組合法上の労働者」に当たるか、②谷口さんを委員に委嘱しなかったことは不利益取り扱いに当たるか、③組合の団交申し入れに応じなかった区の対応は、正当な理由のない団交拒否にあたるか、の3点です。

 これに先立って、組合側は準備書面(3)を提出してありました。

 

■組合、源泉徴収票で「労働者性」裏付け

 準備書面(3)での組合側の主張で特に重要なのは、区史編さん委員は特別職非常勤公務員であり「労組法上の労働者性」があることを証拠をもって裏付けた点です。

 組合は、区史編さん委員は特別職非常勤公務員(専門的な知識経験に基づき助言、調査のほか総務省令で定める事務を行う職)にあたると主張していました。一方、区は、区史編さん委員会は区の執行機関でも、条例に基づいて設置された附属機関でもないので、委員は特別職非常勤公務員ではなく個人事業主であると主張してきました。

 今回、区のこの主張を覆すような証拠を、組合側が提出しました。区が作成した谷口さんの「源泉徴収票」です。委員報酬は「給与・賞与」と記載され、給与所得に対応する源泉額(3%)が引かれています。「給与」が支払われるのは、特別職非常勤も含め区の職員に対してです。仮に区史編さん委員会が「外部機関」や「私的諮問機関」で委員が個人事業主であるなら、「給与」を支払うことには法令上の根拠がなく、「謝金」等で支払わなければならないのです。源泉額も変わってきます。ところが区は、決裁文書でも源泉徴収票でも、委員の報酬を「給与」として扱っていたことがわかりました。この事実は、区史編さん委員は特別職非常勤にあたると区も考えていた証拠です。特別職非常勤公務員には、労組法が適用されます。

組合側は、谷口さんら区史編さん委員は、①事業組織への組み入れ、②契約内容の一方的・定型的決定、③報酬の労務対価性が明らかであり、その他の要素も含め総合的に見て「労組法上の労働者性」が優に認められると主張。とりわけ、区が作成した源泉徴収票によって、③が裏付けられたことには決定的意味があると述べました。

 

■区側「反論を出すのに2か月ほしい」

 世田谷区は、組合側準備書面(3)に反論したいと述べました。しかも、書面提出に2カ月も必要と言うのです。区史編さん委員は「労組法上の労働者」ではないから却下してほしいという区の主張は、大きく揺らぎ始めたようです。

 区側の準備書面提出期日は7月末です。組合は、反論書面を待つ間に、世田谷区が谷口さんに対して行った行為(著作者人格権不行使の強要、委員委嘱の打ち切りなど)がいかに不当・不条理であるかを、さらに社会的に問うていきたいと考えています。

(杉村和美)

「区は話し合いに応じて」  世田谷区役所前でアピール

4月25日は25℃を超える夏日となった。

 都労委での和解決裂を受けて、4月25日世田谷区役所前で抗議の宣伝を行った。出版ネッツの10人に加え、フリーランスユニオン、民放労連関東地連、世田谷区史のあり方について考える区民の会から計13人が参加した。昼休みの12時から40分間、チラシを配りながら、アピールした。

 まず、世田谷区史編さん問題担当の杉村和美さんがアピール。区が都労委から示された和解案を蹴ったことに抗議するとともに、今年1月「セクシー田中さん」の原作者が自死した件にふれ、「著作者人格権は歴史家にとっても命の問題。区は話し合いに応じるべき」と訴えた。

 駆けつけてくれた他団体は次のように挨拶した。

フリーランスユニオン

「私たちは世田谷区史編さん問題でネッツの皆さんと共闘している。フリーランスの働き手としての権利が保護されているか、人間らしい労働が保障されているか、さらに専門家の知見を無視した商品やサービスはいかなる弊害をもたらすのか、この問題で問われている」

民放労連関東地連

著作権は文化や芸術に携わる人が持つ大事な権利。これが蔑ろにされると、日本の文化がふみにじられる。書いたものを他に流用したければ、著作権を持つ人と別途契約を結べばいい。自治体は私企業に率先して、著作権問題で範を示すべき」

〇世田谷区史のあり方について考える区民の会

「日本で唯一世田谷吉良氏を専門に研究されている谷口雄太さんの力は、世田谷区史の編さんに必要。この問題の早急な解決を保坂区長、区の皆様にお願いしたい」

 その他ネッツ組合員は、世田谷区がハラスメント防止基本方針の対象職種から業務委託を外したことについて、「国がフリーランス保護に向かう中、時代に逆行」と批判するとともに、「保坂区長もかつてフリーランスだったが、20代のころ同じ目に遭ったらどうしたでしょう」と問いかけた。

 抗議行動を終えると、団体交渉を求めて、政策経営部と区長秘書室を訪問。政策経営部長、秘書課長に申し入れ書を手渡した。

(松本浩美)

配布したチラシ・表

配布したチラシ・裏

 

4月8日都労委での和解決裂 世田谷区、著作権尊重の和解案にまさかの対応

 4月8日東京都労働委員会の第6回調査では、前回(2月29日)に都労委が示した和解案をベースに、合意・解決に向けてのすり合わせが行われる流れになっていました。ところがいったん持ち帰った都労委和解案を、世田谷区が全否定してきたために和解は決裂。今後、審問(裁判でいう証人尋問のようなもの)へと進むことになりました。

 都労委和解案は、①著作権著作者人格権の尊重、②ハラスメント防止対応、③本件申し立てがなされた経緯についての遺憾の意(要旨)の3項目。谷口さんと組合が求めてきたことに大筋で理があると都労委の公労使委員も受け止めた内容でした。

 世田谷区は①について、「編さん委員との間で具体的な執筆原稿の修正方法を相談・検討する」と記載すべきと主張して、「著作者人格権不行使」条項の削除を認めようとしません。この間、「著作者人格権」が著作者にとって命や人権の問題であることが知られるようになっていますが、頑なにこれを拒否し、あくまでも谷口さんを排除しようとする世田谷区に憤りを禁じることができません。

 世田谷区が、区史を刊行してしまえば「解決」になると考えているなら、そうはいきません。私たちは、区民の会とタッグを組んで、世田谷区史問題を広く社会に訴えていくつもりです。今後ともご支援とご注目をお願いします。

(杉村和美)