御所巻(ごしょまき)―世田谷区史編さん問題―

御所巻とは、中世の異議申し立て方法のことを言います。世田谷区による区史編さん委員へのパワハラと著作権の問題についてのブログです。出版ネッツのメンバーが運営しています。

実効確保の勧告を申し立て 〜 1月10日に第4回都労委調査〜

 2024年1月10日、東京都労働委員会で第4回調査が行われました。

組合は、「審査の実効確保の措置勧告の申立書」(以下、「実効確保の申立」)と、書証として木更津市編集委員会の「著作権の取り扱いについて」、文化庁著作権契約作成支援システムを活用した契約書などを提出しました。 

「実効確保の申立」とは、審査の実効性を確保するため必要な措置をとるよう求める手続きです。たとえば、証人の審問出頭に対する妨害があったような場合や、配置転換について争っているときに配置転換拒否を理由として懲戒処分をするなど、救済を申し立てた事件に関して派生した事態が起きた場合に勧告を求める申し立てができます。

今回、組合は、「著作権の扱いについて協議が整うまでの間、谷口組合員の執筆が予定されていた中世史の該当箇所につき、他の委員への分担、執筆、編集を進めてはならない」という勧告を求めました。その理由は、他の委員が執筆して完了してしまえば、仮に労働委員会から「谷口さんを委員に戻して執筆をさせるように」という救済命令が出たとしても、命令が意味のないものになってしまうからです。これでは、救済の基礎が破壊されてしまいます。

残念ながら、実効確保の勧告には強制力はありません。しかし、世田谷区に対して「不当労働行為のやり得を許さない」という組合の意思を伝える効力はあります。世田谷区がこれにどう対応するのかを見守りたいと思っています。

 

■委嘱打ち切りは組合員排除

 

 今回、公益委員と労働者委員が交代したため、仕切り直しの調査となりました。

 組合側は、改めてこの事案の経緯を時系列で話しました。

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2022年9月末著作権譲渡に関する契約書案が区史編さん委員会に提案される⇒10月谷口さん組合加入⇒11月より再三にわたり団体交渉の申し入れ(区側はこれを拒否)⇒2023年2月10日付で区は、著作権譲渡契約書(著作者人格権不行使を含む)と承諾書を送り付け、これにサインしなければ次年度の委員委嘱をしないし執筆もさせないと通告⇒組合、協議を申し入れ⇒2月28日著作権についての話し合い(組合、継続協議を要請)⇒3月6日区から協議を打ち切るとのメールが届く⇒組合、協議の続行を申し入れ⇒3月31日谷口さんの委員委嘱打ち切り。

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 労働委員会は、労働組合法第7条が禁止する「不当労働行為」があったかどうかを審査する機関です。そのため、どの時点で谷口さんが組合に加入したのかが非常に重要です。「不当労働行為」に該当するケースとしては、「組合員であることや組合活動をしたことを理由とする解雇その他の不利益取り扱い」や「正当な理由のない団体交渉の拒否」などがあります。「団体交渉の拒否」の事実は比較的はっきりしていますが、「組合員であることを理由とした不利益取り扱いか」を立証するのは、難しいことが多いです。なぜなら、使用者は「組合員だから契約を切った」などとは決して言わないからです。別のもっともらしい理由を挙げてきます。

本件においても世田谷区は、谷口さんの委嘱を打ち切ったのは、2月10日付の著作権譲渡契約書を結ばなかったからだと言っています。他の委員にも同じように承諾書を送っていると。しかし、区は谷口さんと組合が「著作者人格権不行使」に強く反対していることを知った上で、2023年2月10日に“踏み絵”のような承諾書を突き付け、話し合いを1回で打ち切り、委員委嘱を切っています。このような経緯から、委嘱の打ち切りはもの言う組合員の排除(=不利益取り扱い)以外のなにものでもありません。

 

■「和解で譲れないものは」と質問が

 

調査では、組合は上記のような説明を行った後、再度「話し合いで解決をしたいので区側に働きかけてほしい」と要望しました。公益委員からは「和解にあたって、どうしても譲れないものは何ですか」との質問がありました。

その後、公益委員は世田谷区側にも、和解を打診したのではないかと思います。結論としては、次回は通常通りの調査が行われることになりました。第5回調査期日は、2月29日です。

昨年11月に区側があっせん(話し合い)への移行を蹴ってきたので、和解は立ち消えになったと受け止めたのですが、上記のような公益委員の質問から推測すると、全く白紙になったわけではないようです。労働委員会をはじめ、様々なチャンネルを活用して早期解決を図っていきたいと考えています。

(杉村和美)