御所巻(ごしょまき)―世田谷区史編さん問題―

御所巻とは、中世の異議申し立て方法のことを言います。世田谷区による区史編さん委員へのパワハラと著作権の問題についてのブログです。出版ネッツのメンバーが運営しています。

世田谷区、話し合いを拒否 ~次回調査期日は2024年1月10日~

 11月17日、組合側は「準備書面2」を提出するとともに、世田谷区史編さん事案をこれまで担当されてきた公益委員と労働者委員の任期の切れる11月末までに話し合いのテーブルを設けるところまで進めることができないか、労働委員会に相談をしたところ、あっせんに移行する方法があることを教えてくれました。現在、私たちは不当労働行為の審査制度を活用していますが、労働委員会には「あっせん」という話し合いで解決する制度もあります。不当労働行為の審査を担う委員は、任期が切れたあともあっせん員として関与できることがわかり、組合は、あっせんへの移行を希望しました。この事案について熟知している3人の委員があっせん員として、双方の主張のとりなしやあっせん案の提示などをしてくれるのですから、願ってもないことです。
 しかし、世田谷区は、これを拒否してきました。残念ですが、新しい委員の下で、引き続き調査が行われることになりました。

●新しい委員が決まる

 12月8日、労働委員会の総会にて、新しい担当委員が決まりました。公益委員 神吉(かんき)知郁子さん(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、労働者委員 日野麻美さん(自治労港区職員労働組合特別執行委員)、使用者委員は、引き続き黒羽二朗さんです。
 労働者委員の日野さんは、港区職労が出身単組です。港区では、2020年に区史を発刊。区史執筆にあたり、著作権譲渡を提案しましたが、編さん委員の反対に遭い、利用許諾契約書を交わしたという経緯があります。
 次回調査期日は、2024年1月10日になりました。私たちは、労働委員会の場だけではなく、世田谷区史編さん問題について、何が問題になっているのかを、もっと広く知らせていく必要があると考えています。すでに、歴史研究者、歴史学会、著作権法や労働法、経済法の研究者、マスコミ関係者、労働組合関係者などに広がり、世田谷区への批判の声が上がっています。今後は、世田谷区民の中にも広げていきたいと思っています。
 引き続きのご支援を、よろしくお願いいたします。

                                 (杉村和美)

11月6日都労委第3回調査報告 ~組合側、話し合いでの解決を提案~

 11月6日、東京都労働委員会で第3回調査が行われました。これに先立つ10月30日、世田谷区側が「準備書面1」を提出していました。主な内容は、次のとおりです。

①    区史編さん委員の任期は「区史編さんの終了まで」
 谷口さんへの区史編さん委員委嘱状は、当初、「区史編さんが終了する日が属する年度末まで」となっていました(2017年6月1日付)が、2022年、区史編さん委員会の再編に伴い、「1年ごとに委員の任期が更新される」と変更されました。組合側は、「任期を1年に短縮することの合理性はあるか。契約内容の変更には合意が必要であるが、いつどのように合意が成立したのか」と問うていました。
 これに対する区の主張は、「『編さん終了まで委嘱』の運用は、区史編さん委員会再編での変更はない」というもの。谷口さんには区史ができるまで委員を続ける期待権があることを、区側が認めたことになります。

②    委員を委嘱しなかったのは「著作権をめぐる条件に関して合意形成できなかったから」
 では、2023年度の委員委嘱をしなかった理由は何か。区側は、「著作権をめぐる諸条件に関して合意形成できなかったから」と主張しています。しかし、「著作権をめぐる諸条件」の合意形成に向けての話し合いは、2023年2月28日の1回しか行われていません。話し合い続行を望む組合側に対し、一方的に話し合いを打ち切ってきたのは区側です。話し合いを積み重ねれば合意形成する可能性は十分にあったし、今でもあるのです。

③    区史編さん委員会は外部機関!?
 労働委員会では、谷口さん(区史編さん委員)は労働組合法上の労働者と言えるかどうかがまず審議されます。「労組法上の労働者性」を判断するうえでは、①事業組織に組み入れられているか、②契約内容が一方的・定型的に決定されているか、③報酬の労務対価性があるか(フリーランスは、「成果」に対する対価を報酬として受け取るとされている)などが検討されます。組合側の「準備書面1」で、私たちはこれらを主張・立証していました。
 これに対する反論として、区は、「①事業組織への組み入れ」を否定するために、区と区史編さん委員会とを切り離すという主張をしてきました。「本件事業は主として各専門委員会及び各委員等の裁量で進められているものであり、その実態は、まさに外部機関への委託または請負にほかならないというべきである」と。しかしこの主張を裏付ける「区と(外部団体である?)編さん委員会との契約書」も「編さん委員会と委員との契約書」も出していません。おそらくないのでしょう。
 これには、私たちも驚きました。なぜなら、区史編さん委員会は、要綱に基づいて区が設置した区の機関であり、だからこそ区が予算をつけ職員を配置し運営しているのです。報酬額など重要事項目も区が決定しています。さらには、本来は区史編さん委員会が決めるはずの原稿の内容にまで区が深く関与し、著作権著作者人格権の扱いも区が決めてしまっているのです。

●11月中に4回目の調査期日を入れてほしいと要望

 組合は早期解決のため、組合側の「準備書面2」を早急に出すので、11月中にもう一度調査期日を入れてほしい、和解での解決を区側に打診してほしいと要望しました。残念ながら調整がつかず、12月に改めて日程調査をすることになりました。

                                 (杉村和美)

不行使特約、歯止めはどこに 〜国際著作権法学会(ALAI)日本支部が研究大会〜

ALAI研究大会

 フランスの文豪ビクトル・ユーゴーを名誉会長に結成された国際著作権法学会ALAIの日本支部は、2023年12月9日、「著作者人格権の不行使特約は可能か」をテーマに一橋大学で研究大会を開いた。この会は、世田谷区が区史編さん委員に著作者人格権不行使を迫り、応じない委員の委嘱を切った問題を「きっかけ」に企画され、7月15日のシンポジウム「歴史研究と著作権法」で基調講演した一橋大学の長塚真琴教授(著作権法)が趣旨説明と司会を務めた。

 

 ギタリストでもある長塚教授は、シャンソンがCM用に改変され著作者側が広告会社、広告主側を訴えた「愛し合おう」事件の原曲とCMを動画で対比。フランスの下級審は著作権譲渡契約を盾に改変を容認したが、破毀院(最高裁)は「著作者人格権(の尊重)は公序である」とし、無断改変を拒む著作者の権利を認める判決を言い渡した。著作者人格権をどこまで尊重するか。フランスでも学説は分かれているとのことだったが、「文化を守り伝える役割を著作者に担わせることは公序である」という理念が司法にも生きていることに励まされた。

 

 続いて3人のシンポジストが問題提起。スウィートホーム事件で原告(脚本家、監督)代理人を務めた中小路大弁護士は、法律実務家の立場から「コンピュータ・プログラムが著作権法で保護された後、遅くとも1991年には不行使特約があった」とし、映像分野も含め変遷を解説した。不行使特約が同じように入っていても映画・ドラマとバラエティとでは扱いが違うという。

 

 金沢大学の石尾智久専任講師(民法)は、「不行使特約は、著作物に人格的価値が大きいと公序違反に傾くが当事者の立場(力)の差、同意の任意性、対価の大きさも関わる」と整理した上で「日本の裁判で公序違反が認められることは少ない」とし、公序違反かどうかより、同意の成立や不行使の範囲を考えた方が有益ではないかと示唆。さらに、不行使特約が有効でも「撤回権」を認めることで著作者の利益を守る選択肢を提示した。

 

 公取委出身の中里浩・東京経済大教授(経済法)は、フリーランスサミット2023でのフリーランスとの意見交換を踏まえて報告。「著作者人格権を経済法でどう扱うかはこれまで考えてこられなかった問題」としつつ、「著作権譲渡や不行使の(上乗せ)報酬がなければ、経済上の利益提供や買いたたきとして下請法やフリーランス法の違反に問いうる」との考えを述べた。

 

PR会社を介して自治体の仕事を請けたイラストレーターの例とゴーストライターの例を「想定事例」として提示し、長塚教授と3人のシンポジストがそれぞれの見解を示すという工夫が理解を助け、「フリーランス著作権」もホットイシューとあって質疑応答も白熱。中里教授が「交渉力の違いを正す一つの手段に集団的解決がある」と述べたのを受け、中小路弁護士は「声優の出演料や二次利用をめぐる日本俳優連合アニメ会社等との協定」を良い例として紹介した。

 

 著作権法民法、経済法に各分野の実務家も加わった学際的議論は、一つの山にいろいろなルートから登る試みにも似て興味深かった。長塚教授は「フランスと日本とはいろいろ違うが、共通点もある。民主主義の国で、個が尊重され、文化がある」と語った。逆にいえば、著作者人格権を否定することは、「民主主義と個の尊重、文化」の軽視につながる。地方自治体がそんなことをしてはいけない。世田谷区史編さん問題を解決する意味を改めて考えさせられた。

                                  (北健一)

『放送レポート』11月号が報道-マスコミ関係者にも広がる関心

 メディア総合研究所(谷岡理香所長)が発行する『放送レポート』11月号に、世田谷区史編さん問題についての大きな記事が載りました。タイトルは「歴史編さんで著作者人格権不行使を強要」。筆者は、同誌編集委員の吉永磨美さん(元毎日新聞記者)です。

 メディア総研はマスメディアの影響、問題点と可能性を明らかにすることをめざす研究機関で、『放送レポート』はマスコミ関係者、研究者に広く読まれています。

 今回の記事は、著作者人格権不行使強要と委員委嘱打ち切りの経過をはじめ、区制85年記念誌(「プレ区史」)での無断改変や著作権侵害などの前史、著作権アンケート(https://union-nets.org/archives/8538)で明らかになった自治体史編さんをめぐる状況、歴史学会や労働組合での抗議声明賛同の広がりを詳しく伝え、委員を切られた谷口雄太さん(青山学院大准教授)、出版ネッツ・杉村和美さんのコメントも紹介しています。

 11月号には関東大震災100年をめぐる記事が多く載り、表紙も都立横網町公園内の朝鮮人犠牲者追悼碑前で開かれた追悼式典の様子でした。

 吉永さんは記事で、「谷口さんと出版ネッツは、公権力である行政機関が歴史学者に(著作者)人格権不行使を強要するのは、歴史修正への道につながりかねないとして問題視している」と書いていますが、関東大震災後の朝鮮人虐殺を「なかったこと」にしようとする圧力は、自治体史編さんでの歴史学者に対する権利制限が「歴史修正への道につながりかねない」という危惧の切実さを示していると思えます。

 歴史問題ではないのですが、同じ号に載っている「NHK文書開示等請求訴訟の新たな展開」(長井暁さん)も興味深い内容でした。かんぽ生命保険不正販売をめぐるNHKの報道に日本郵政副社長(元総務事務次官)が圧力をかけ、その意を受けたNHK経営委員長がNHK会長に筋違いな厳重注意を与えながらひた隠しにしてきた問題(経営委員会議事録非公開)に対し、市民グループが議事録開示などを求めて起こした裁判のドキュメントです。議事録隠ぺいに固執する経営委員長に、NHK執行部はルールどおり公開すべきと考え、攻防が繰り広げられてきたことがわかります。NHKの弁護士が証人尋問で経営委員長を追及する場面など、まるでドラマのよう。伝えるべきことを伝えようとする気概と不当な圧力への現場の怒りが、行間から伝わってきます。

 翻って、世田谷区史編さんはどうでしょう。委員に残る歴史研究者の方々や心ある区職員が全員、著作者人格権不行使強要を良しとしているとは思えないのですが。

                                 (北 健一)

『放送レポート』10月号目次

http://www.mediasoken.org/broadcast_report/view.php?id=179

保坂区長に問いたいこと ―10.6世田谷区役所前行動の報告

 世田谷区役所前の情宣活動(ビラまき、アピール)に参加するのは3回目になる。

 ビラまきの準備をしていると、職員の方が何名かいらっしゃって、「敷地内に入らないように。敷地内での活動には許可が必要」とおっしゃる。

 そもそも区役所前というのはパブリックなスペースであろうし、どこからが敷地なのかも判然としないが、いつも通り、歩道の隅で整然と、メガホンのボリュームもごく控えめに情宣活動をスタート。

 フリーランス新法が成立し、業務委託(フリーランス)の問題やハラスメントに対する人々の意識も変わってきているのだろう。ビラを受け取って組合員のスピーチに耳を傾けてくれる人も多いと感じる。

 組合の仲間たち一人一人の、保坂区長に、そして区役所で働く仲間の人たちに届けようとする真摯な訴えには力がある。

 フリーランスユニオンの仲間は、こういう問題に時間をかけ、弁護士を雇って無駄なお金を使うのが区民のためになるのかと問いかける。

 ネッツの仲間の一人は、保坂区長のこれまでのジャーナリストとしての活動に敬意を持っているだけに、話し合いが行なわれない現在の状況が非常に残念だ、と語った。

 私もそう思う。

 私の友人には、保坂区長が政界に出る以前、彼に大きな薫陶を受け、現在、ジャーナリズムをはじめとして様々な分野で頑張っている人間が何人もいる。

 もちろん、区政は区長が一人で決めるものではないから、そこに様々なせめぎ合いや葛藤があろうことは承知している。

 その上で、私が問いたいのは一つだけだ。

 保坂区長、もし、若き日のあなたが、谷口雄太さんの立場であったらどうしたか、と。

 私は希望を捨てていない。

                                 (太田胤信)

10月6日 区長室秘書課と政策経営部に申し入れ

 10月6日、世田谷区役所前行動に引き続き、区への団体交渉の申し入れを行いました。

 申し入れ先は、区長室秘書課と政策経営部(区史編さんの担当課)です。

 

保坂区長に「熟議」を求める

 区長室秘書課に提出した保坂区長宛の「要請書」には、4月の区長選のさなか、区史編さん問題の解決を求める区民・市民に区長は「選挙が終わったら対応する」と答えたにもかかわらず、何の対応もしていないこと、6月頃市民が「区長へのメール」でこの問題についての意見・質問を送ったにもかかわらず、「正式な回答については、7月以降に改めて回答する」との返事が届いたきり、その後何の連絡もないことを指摘。

 常日頃「熟議―とことん話し合うことから始めよう」をアピールしている保坂区長に、その信条に基づいて私たちとの「熟議」を行うよう申し入れました。

 

「ハラスメント防止基本方針」改悪=フリーランス排除に抗議

 また、世田谷区「ハラスメント防止基本方針」の改悪(対象となる「職員」の定義から「委託業務に従事する者」と「特別職非常勤」を外した)についても抗議し、フリーランス(業務委託)を排除した理由を問いただしました。

 

【「要請書」より一部抜粋】

―――

 (2018年の原稿改ざんをめぐるやり取りの中でパワハラを受けた)谷口さんは区の「ハラスメント防止基本方針」に基づき相談窓口に相談しましたが、「職員以外からは受け付けない」と拒否されました。「基本方針」の「職員」の定義には「委託業務に従事する者」を含むとなっていたにもかかわらず、です。この問題が2022年に区議会で追及されたところ、担当部署の課長は「基本方針を書き直す」と答弁しました。そして、2023年3月には、「職員」の定義から「業務委託に従事する者」と「特別職非常勤」が外されるという改悪が行われています。

 本年4月にはフリーランス新法が成立し、法律の中に「ハラスメント対策を講じること」が盛り込まれました。こうしたフリーランスの権利を守っていく流れに逆行する「基本方針」改悪に、強く抗議します。

 なぜフリーランス(業務委託従事者)を排除する改悪をしたのか、かつてフリーランスライターであった保坂区長の見解をお聞かせください。

―――

 

 政策経営部に対しては、区史編さん問題について、話し合いの場をもつように申し入れました。

                                 (杉村和美)

 

9月1日都労委第2回調査報告 委員委嘱打ち切りの背景にあるハラスメント問題や任期の変更について説明

 9月1日、東京都労働委員会で第2回調査が行われました。組合側が「準備書面1」を出して迎えた調査でした。

 

 組合側「準備書面1」では、おもに次のような内容を主張していました。

2017年の無断改ざんに関する区の主張への反論

 世田谷区は答弁書において、区の行った無断改ざんについて、「原稿の修正については谷口雄太さんの了承を得ている」などと主張していた。これに対して、無断改ざんが行われた経緯を、証拠を示しながら反論した。

組織改編と委員委嘱の任期の変更について

 2022年3月、区史編さん委員会の改変が行われ、同時に委員委嘱の任期についても、当初の「区史編纂が終了するまで」から「1年ごと」に変更された。その理由として区は「組織の効率化」を挙げる。どのように効率化されたのかは不明だが、仮にそれが必要だったとしても、「区史編纂が終了するまで同じ人が委員を続けることには高い合理性がある」ことは変わらない、と反論。谷口さんには「委員を続ける期待権がある」とも主張した。

ハラスメント問題の経緯

 谷口さんは、2017年の原稿改ざんをめぐるやり取りの中で区の職員他からのハラスメントに遭っている。さらに、谷口さんが区の「ハラスメント防止基本方針」に基づき(当時「基本方針」の「職員」の定義には「委託業務に従事する者」も含むとされていた)、相談窓口に相談したが、「職員以外からの相談は受け付けない」と言われた(二次被害にあたる)。委員委嘱打ち切りの背景にあるハラスメント問題の経緯を、証拠を示しながら詳しく述べた。

 そのほか、委員委嘱打ち切りと谷口さんの組合活動との関係や、谷口さんが労働組合法上の「労働者」にあたることなども主張した。

 

 三者委員(公益委員、労働者委員、使用者委員)は、「準備書面1」の内容をよく把握していて、「 区史編さん委員会の体制変更が行われているが、変更前と変更後では、メンバーは変わっているのか」など、突っ込んだ質問をいくつか受けました(「谷口さんは外されたが、それ以外のメンバーはほぼ同じ」と答えました)。

 とくに公益委員(川田琢之筑波大教授・労働法)は、同じ学者として、世田谷区の著作権の扱いや区史編さん委員への対応に疑問を抱いているように思えました。

 

 次回第3回調査は、11月6日です。たいていは1カ月に1回開かれるのですが、世田谷区は三者委員からの質問に対して「わからない」ことが多く、準備書面作成に時間がかかるため、2カ月後の期日になったようです。

                                 (杉村和美)