御所巻(ごしょまき)―世田谷区史編さん問題―

御所巻とは、中世の異議申し立て方法のことを言います。世田谷区による区史編さん委員へのパワハラと著作権の問題についてのブログです。出版ネッツのメンバーが運営しています。

世田谷区史編纂問題に対する歴史学界の反応

世田谷区史編纂問題はさまざまな問題を含むが、現在非常に大きな問題となっているのが著作者人格権の不行使強要の一件である。著作者人格権とは、著者に無断で内容を書き換えられない権利であり、その不行使とは、それを否定する行為である。つまり、著作者人格権の不行使とは、著者に断りなく勝手に書き換えてもよいと認めるものにほかならぬ。普通に考えても奇怪な話であるが、とりわけ世田谷区が編纂委員に対してそれを強要するということは、行政が歴史家に無断での内容修正を認めよとせまるものにほかならず、権力による歴史修正につながる危惧があることは、まともな研究者なら容易に想定できるはずである。事実、かかる著作権譲渡(無償)+人格権不行使を強要したのは、データの結果からすると、自治体史では世田谷区がはじめてのようであり(谷口雄太・出版ネッツ編纂『著作権アンケート調査報告書―自治体との契約を中心に―』出版ネッツ、2023年 https://union-nets.org/archives/8538)、世田谷区―人格権不行使を強要し、従わぬ者を馘首した―の異常性・異形性は明らかである。

 

そのため、現在多くの歴史学会が世田谷区の暴挙に対して批判の声を上げている。たとえば、歴史学研究会・日本史研究会・歴史科学協議会歴史教育者協議会・歴史学会といった日本を代表する全国的歴史学会、そしてさらに、千葉歴史学会・静岡県地域史研究会・奈良歴史研究会・京都民科歴史部会・東北史学会といった地域に根差す実力派の学会などである。むろん、個人でも、多くのまともな歴史研究者は世田谷区の愚行に対して強い疑義を表明している。

 

こうした歴史学会の反応を―現時点で、管見の限りだが―以下、具体的にいくつか掲げる。

 

まず、下記の声明につき、歴史学研究会歴史科学協議会が雑誌に掲載し(『歴史学研究』2023年6月号、『歴史評論』2023年6月号)、HPにも掲げた。日本史研究会・歴史教育者協議会はHPに掲出した。

https://union-nets.org/archives/8500

http://rekiken.jp/journal/2023jp/

http://www.maroon.dti.ne.jp/rekikakyo/magazine/contents/kongetugou.html

https://www.nihonshiken.jp/category/activities/statement/

https://www.rekkyo.org/archives/7385

 

また、歴史科学協議会編集の『歴史評論』2023年5月号の「編集後記」で、宮瀧交二氏は「私もこれまで、いくつかの自治体史の編さんに携わってきましたが、今回の世田谷区のような事態は、耳にしたことがありません。執筆者の与り知らないところで、原稿が改変されるようなことがあっては、まさに「歴史の捏造」が生じかねません」と当然の疑問を提起している。

 

さらに、白鳥舎編集制作・岩田書院ウェブ公開の『地方史情報』2023年5月号の「後記」で、飯澤文夫氏は「勝手に改訂しないというのなら、不行使を求める必要はない。都合の悪い記述は書き換えて、歴史を改竄しようと考えているわけではないだろうが、そのように疑われかねない行為はすべきではない。自治体史は住民のためのものである」とこれまた当然の意見を表明している。

http://www.iwata-shoin.co.jp/local/local-info_161.pdf

 

このように、現在歴史学界は世田谷区の姿勢・態度に対して強い疑問を示しており、世田谷区史編纂事業の異常性・異形性だけが浮かび上がる構図となっている。

                                 (谷口雄太)