御所巻(ごしょまき)―世田谷区史編さん問題―

御所巻とは、中世の異議申し立て方法のことを言います。世田谷区による区史編さん委員へのパワハラと著作権の問題についてのブログです。出版ネッツのメンバーが運営しています。

『放送レポート』11月号が報道-マスコミ関係者にも広がる関心

 メディア総合研究所(谷岡理香所長)が発行する『放送レポート』11月号に、世田谷区史編さん問題についての大きな記事が載りました。タイトルは「歴史編さんで著作者人格権不行使を強要」。筆者は、同誌編集委員の吉永磨美さん(元毎日新聞記者)です。

 メディア総研はマスメディアの影響、問題点と可能性を明らかにすることをめざす研究機関で、『放送レポート』はマスコミ関係者、研究者に広く読まれています。

 今回の記事は、著作者人格権不行使強要と委員委嘱打ち切りの経過をはじめ、区制85年記念誌(「プレ区史」)での無断改変や著作権侵害などの前史、著作権アンケート(https://union-nets.org/archives/8538)で明らかになった自治体史編さんをめぐる状況、歴史学会や労働組合での抗議声明賛同の広がりを詳しく伝え、委員を切られた谷口雄太さん(青山学院大准教授)、出版ネッツ・杉村和美さんのコメントも紹介しています。

 11月号には関東大震災100年をめぐる記事が多く載り、表紙も都立横網町公園内の朝鮮人犠牲者追悼碑前で開かれた追悼式典の様子でした。

 吉永さんは記事で、「谷口さんと出版ネッツは、公権力である行政機関が歴史学者に(著作者)人格権不行使を強要するのは、歴史修正への道につながりかねないとして問題視している」と書いていますが、関東大震災後の朝鮮人虐殺を「なかったこと」にしようとする圧力は、自治体史編さんでの歴史学者に対する権利制限が「歴史修正への道につながりかねない」という危惧の切実さを示していると思えます。

 歴史問題ではないのですが、同じ号に載っている「NHK文書開示等請求訴訟の新たな展開」(長井暁さん)も興味深い内容でした。かんぽ生命保険不正販売をめぐるNHKの報道に日本郵政副社長(元総務事務次官)が圧力をかけ、その意を受けたNHK経営委員長がNHK会長に筋違いな厳重注意を与えながらひた隠しにしてきた問題(経営委員会議事録非公開)に対し、市民グループが議事録開示などを求めて起こした裁判のドキュメントです。議事録隠ぺいに固執する経営委員長に、NHK執行部はルールどおり公開すべきと考え、攻防が繰り広げられてきたことがわかります。NHKの弁護士が証人尋問で経営委員長を追及する場面など、まるでドラマのよう。伝えるべきことを伝えようとする気概と不当な圧力への現場の怒りが、行間から伝わってきます。

 翻って、世田谷区史編さんはどうでしょう。委員に残る歴史研究者の方々や心ある区職員が全員、著作者人格権不行使強要を良しとしているとは思えないのですが。

                                 (北 健一)

『放送レポート』10月号目次

http://www.mediasoken.org/broadcast_report/view.php?id=179